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文芸サークル「名で充ちた空」ブログ

名で充ちた空

カニューシャ第2巻3 | main | カニューシャ第2巻1
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カニューシャ第2巻2
 席で待っていた実母は少し痩せて見えた。
 服装や装飾も地味になっていた。
 化粧には華やかさが無い。
 それを予想していたシズワタも装いは控え
目だった。
 給仕の勧めでシズワタも席に着く。
 実母は口を開かない。
 向かい合うシズワタは予感に気圧されて何
も言い出せなかった。
 既に注文済みらしく食事が始まった。
 母子それぞれに土鍋を用意しての蟹鍋。
 シズワタは何も言えなかった。
 数週間前から確定していた末路なのに、震
えが止まらなかった。
 実母が言葉を発したのはシズワタが辛うじ
て最後の雑炊に追い付いた時だった。
「ごめんなさい」
 母のその一言で、思ってもなかった量の涙
をシズワタは零した。
 母が謝る姿なんて見たくなかった。
 何時も強気で仕事の時でさえ滅多に頭を下
げない人なのに。
 有り得ないとすら思っていた言葉は家族の
凋落を嫌でも実感させた。
 即座に泣き出した自分は惨めだった。
 競争なら勝ってみせれば良い、等と空を見
上げた正月は逃避も兼ねた自惚れだった。
 こんなに呆気なく何もかも崩れた。
 卒業証書を受け取る時に覚えた穏やかさは、
希望でも決意でも無かった。
 そうでなければ、この無能さは何なのか。
 今こそ母を慰めなければならないのに。
 それこそ目標だったはずなのに。
 無力で無様なしゃくり上げが止まらない。
 今まで努力してきた事は何だったのか。
 誓いと実践は、あらゆる困難に立ち向かう
凄い発見だと信じた以前を思い出す。
 家族の絆を金銭に換算する資産学徒制度は
幼い頃予感したままの恐怖を現実化させた。
 母は今まで余所の子にしか使わなかった優
しい口調で今後の事を告知し始める。
 シズワタは許可された面会の終了時間が近
づいてきている事に気付いた。
 伝えなくては。
 後で届く治療案内なんてどうでもいい。
 今、母に自分の気持ちを伝えなければ。
 それなのに嗚咽が邪魔して言葉にならない。
 何で私は、こんなに弱い!
 何でこの身体は、言うことを聞かない!
「本当に、ごめんなさい」
 母が席を立つ気配。
 待って!
 お願い、待って!
「お母さん!」
 振り絞った絶叫は、言った自分で余りに切
なくて噎びが酷くなった。
 母が近づいてくる。
 言葉を言うだけなのに!
 どうして!
 結局、シズワタは何も伝えられなかった。
 背中を摩ってくれた母の手を握るだけが精
一杯だった。
 握り返してくれた母も泣いていた。
「貴方を産んで良かった」
 母は、ちゃんと言葉を口にした。
 シズワタは最後まで母に及ばなかった。
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| カニューシャ | 22:45 | トラックバック:0コメント:0
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  • Author:壱意再帰
  • 同人小説の発表だけでなく作詞も行うので「文芸」サークル。
    感想ブログも兼ねています。
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