FC2ブログ
文芸サークル「名で充ちた空」ブログ

名で充ちた空

登録済みで存在するのにTOPに表示されない。 | main | カニューシャ第1巻48
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
| スポンサー広告 | --:-- |
カニューシャ第1巻49
 コウヨウコに招かれて榻摩家へ移籍する以前、シズワタには七歳で上京して以来の筆頭保護者がいた。
 その女性はシズワタの実母でもあった。
 競争を美徳とする都に相応しい女性だった。
 経歴を重んじ健全を欲し睡眠を蔑んだ。
 彼女は都内に二人分の居住権を持っており、都内私立校に学籍を置くシズワタは寮ではなく自宅から登校していたが家庭内で行われた躾は寮生から聞く研修より厳しかった。
 居眠りすれば育児用品の放電で起こされた。
「早くしなさい!」
 と響く罵声が聞こえると、それが自分に向けられた言葉では無いと分かっている時でも幼いシズワタの顔からは血の気が引いた。
 だが、そんな自分の実状を級友と見比べても憎悪は無く、シズワタは母を愛していた。
 上場家庭に義務付けられた毎月の監査で、べったりと母に甘えて見せるのが好きだった。
 進学、表彰、誕生日の度に母が手渡す祝い物は必ずシズワタの好みに合った。
 シズワタはその事を母からの愛だと信じ、自分の心を言い当てる母を尊敬した。
 シズワタに関する全個人情報を管理する権限を持ち、通販会社に専属担当もいた母にすれば簡単な定型作業なのだと気づいた後も、最良を選択する母の愛だと信じた。
 シズワタは、その愛に応えたかった。
 夏期、冬季、春期の休業には、全学年兼用の机を教室に並べ換気窓を板簾で覆った学習塾で、一括契約した弁当と廊下に据え付けられた給水器で飼育されながら競争に励んだ。
 利発な受け答えや愛くるしい仕草は、小遣いを叩いて検索しては練習して身に付けた。
 食事をしながら母の愚痴に相槌を打つ時間がシズワタには貴重だった。
 商戦の失敗や訴訟等で夜中、啜り泣いている母を目撃する事もあった。
 初めて目にした時、不用意に言葉を掛けて慰めるつもりが怒らせてしまった事から、気付かない振りをし続けたが、何時かは上品な劇の様に母を優しく抱く娘になりたかった。
 それがシズワタの夢だった。
 番組、連載、市場が夢を胸に秘めたシズワタの真摯さと懸命さを褒め称えた。
 資産学徒に対する世間での盛り上がりから、最年少記録を一気に更新してシズワタを成人認定しようと言う話も有った。
 しかし、あどけない少女に不相応な健全性は、思春期に入ったシズワタを徐々に苦しめる様になった。
 保護者や世間が年頃の娘に求めるのは、純朴な可愛らしさでは無く、発育と共に綻ぶ一生の内で最も傲慢な魅力だった。
 道徳的な行動を察する能力では無く、時に学業より恋愛を優先し保護者を驚かせる様な意外性を持つ娘が高い評価を受けた。
 シズワタが身に付けた快活さは、成長と共に子どもっぽいと言う否定的な評価を受ける様になった。
 肝心の学業も上京する資産学徒の増加により相対評価では伸び悩んだ。
 進路を報告する保護者総会で、他者と比較した写真を交え、衣装に合う体型に育っていないと個人保護者から酷評されたシズワタは、変化に取り残された自分を思い知った。
 以前は容姿や発育についてそれほど厳しく求められる事は無かった。
 内申書に書かれた抜きん出た成績を強調すれば会が長引く事は無かった。
 合格順位発表以来、続落している時価総額に破綻寸前だった自負心は、シズワタの化粧に細々と要求を捲し立てる筆頭保護者の声に耐えきれなかった。
 前日、シズワタの進学式にやって来た母の態度から指摘される事は判っていた。
 それでも母親にとって晴れの舞台であろう子どもの入学式に恥を掻かせてしまった申し訳無さと自分に対する情けなさでシズワタは涙が止まらなかった。
 業績回復を誓ったシズワタは、それまで以上に睡眠時間を削る様になった。
 深夜、机に囓り付くシズワタの部屋からは少女らしい飾りも慰めも一掃されていた。
 机や棚、寝台に並べていた母からの贈り物も次々と競売にかけて処分してしまった。
 ただ一つ、有り触れた古い大きなぬいぐるみだけは競売不成立で送り返されてきた。
 それだけが部屋の片隅に梱包材で固められたまま残っていた。
 化粧は上達する為だけに買い漁った。
 鏡に向かう時だけ背景等映っていない様にシズワタは華やかに微笑んだ。
 毎月、経済指数に怯えながら通学し続けたが、新年を迎える頃にはシズワタにも明るい兆しが見える様になっていた。
 元日、母の長電話を待つ間、晴れ着の着付けと化粧を済ませたシズワタは何を諳んずるでも無く家の前で晴天を見上げた。
 競争なら勝ってみせれば良い。
 きっと私はこれからもこうして生きていくのだと、シズワタは静かに目を閉じた。
 だが三月を前に母娘の人生は一変した。

カニューシャ第2巻1へ。(携帯用) カニューシャ第2巻1へ
スポンサーサイト

テーマ:同人系 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 19:37 | トラックバック:0コメント:0
コメント
コメントする














管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL
http://ndmctsr.blog20.fc2.com/tb.php/123-9fa7dda8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
トラックバック
| ホーム |

プロフィール

壱意再帰

  • Author:壱意再帰
  • 同人小説の発表だけでなく作詞も行うので「文芸」サークル。
    感想ブログも兼ねています。
    メールアドレスはndmctsr空excite.co.jp
    (スパム対策のため空の字を@に置き換えてください)

最近の記事
Blogパーツ

カテゴリー
最近のコメント

最近のトラックバック
月別アーカイブ
あわせて読みたい

あわせて読みたいブログパーツ

ブログ内検索

RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。