文芸サークル「名で充ちた空」ブログ

名で充ちた空

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カニューシャ第1巻42
「私どもの共有剤は麻薬ではございません。
 臨床実験での接種は薬事法に則るものです」
 発表慣れしたコウヨウコの淀みない言葉に使い雛は無表情に腕を組む。
「構成成分は配信麻薬と同一であろう?」
 不快感を表情で強調して少女は反論する。
「不正な設定が混入した特許侵害商品と一緒にされては困ります」
 冷徹な面立ちを持つ使い雛が応答するより先に睫毛の長い少女は伏し目がちに続ける。
「搭載少女製作委員会が感染災を起こし多数の失踪者を出した事は真に遺憾でありますが」
 写真撮影を想定して照明を浴びながらコウヨウコは毅然と顔を上げた。
「共有剤の臨床実験を担保として引き継ぐ事は計画出資者として当然の権利です」
 討論では不利になる事もある可憐な声を腹式呼吸と唇の形作りで精一杯勇ましくして年若い会長は会見場全体に向けて宣言した。
「だが反対派への布恐活動を行って良いと言う事は無い」
 映像人形の表情が変貌した。

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| カニューシャ | 18:00 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻41
 社会人である事を忘れた様なコウヨウコの挙手で、質疑は開始直後から滞った。
 眉で怪訝を表しつつ人形は咎めない。
 コウヨウコはそれを親切だと解釈した。
「元は水源安保部隊にお勤めの方ですか?」
 その制服は大河紛争当時の物とお見受けしましたが?」
 状況やコウヨウコの立場を考えれば明らかに不適切な言葉だったが使い雛は応答した。
「如何にも。
 職業柄、気になると言う訳か?」
 榻摩履歴株式会社会長は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「恐れ入ります」
「履歴が気になるお嬢様に教えておこう。
 この制服は破壊活動防止庁と改正自衛軍の提携を意味する物ではない」
 傀儡は音声に合わせて口元を動かす。
「そもそも破壊活動防止庁等と言う機関は如何なる自治体にも民間団体にも存在しない」
 コウヨウコは、まぁ、と戯けて笑う。
 破防庁を知らない都民等いない。
 放送設備からの台詞は続く。
「存在しない結社と連携する予算は下りない。
 官公庁は予算に無い事はしない」
 公然の秘密と言う意味での否定では無く、本当に無関係であると伝えたいらしい。
 凜とした容姿の使い雛は右手の人差し指で自らの頬をむにっと押してみせた。
「提出した履歴書を元に支給されるのだ。
 この姿は」

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| カニューシャ | 17:54 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻40
 破壊活動防止庁が事態に介入している以上あらゆる改竄は否定出来ない。
 発疹は掌だけだったが鏡を持たない彼女に顔の無事を自力で確認する術は無かった。
 彼女の秘書は会見場から遠く離れた廊下に待機する事を命じられている。
 無援な彼女の不安は募る。
「最高責任者なのに良く躾られているな」
 会見場に声が降る。
 冠婚葬祭演出用の投影装置で会見場の暗闇に像を結び、軍装した女性型使い雛が現れた。
 清潔な純白の中衣に規律正しく着用した紺の上衣と下衣は改正自衛軍水源安全保障部隊の礼装用制服。
 仕立てがきちんとしているので目立たないが胸囲で夜会服に悩んだ記憶が無いコウヨウコですら敵わない程に胸の大きな使い雛である事は見て取れた。
 肩の階級章を隠さない程度に切った明るい栗色の鬘は緩く波打っている。
 破壊活動防止庁は改正自衛軍の組織系統とは全く別の団体であるはずだった。
 困惑するコウヨウコの胸中など知らない口調で使い雛は宣言した。
「破壊活動防止庁、円基軸首都連合局である。
 都民、榻摩 幸容子への質疑を開始する」

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| カニューシャ | 19:50 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻39
 この夏仕立てたばかりの黒を基調とした面接着に身を包み、会見場に一人、彼女は立つ。
 今年度に成人認定式を予定しながら未だ七五三の童女の様に柔らかな明るい色の髪を、たおやかな背で着る清楚な上着へ滑らかに垂らし壇上を照らす光に輝かせる彼女こそ第五期榻摩奨学生の長女にして榻摩履歴株式会社会長、榻摩 幸容子(しじま コウヨウコ)。
 生殖医療技術の規制緩和を受け超健常児を望んだ第三期主席奨学生二名を母とした受精卵から厳選された形質で生まれた第一子は代表取締役としての立ち姿にも恵まれていた。
 コウヨウコは施錠した会見場入り口に点灯する非常口案内用図記号を裸眼で見つめる。
 絢爛な会見場で豪奢な照明は彼女の立ち位置だけに輝き、後は、消防法を遵守する必要最低限の光源が淡々と灯るだけの暗闇だった。
 歩行者用暗視機能も備えた愛用の掛け視野は、聴取器や腕時計、指輪、膜翅状端末、閲覧用紙等と一緒に破防庁に剥奪された。
 携帯型管理全権局は剥奪を免れたが、休眠状態にする事を命じられている。
 カニューシャであるコウヨウコの肌身は、それだけで通信機能を持っていたが名義抹消剤を注射され操作権限を失った上に無線通信網との契約は凍結されてしまった。
 カニューシャ同士で私的に接触するか、或いは独自に通信網を構築しない限り如何なる送受信も不可能な状態だった。
 後は認証鍵としての生体に流通用の情報しか持たない着衣だけを許された孤立状態で彼女は破壊活動防止庁の尋問を待っていた。
 秒刻みで動き分刻みで収益を上げる事を定められた彼女は肌載器による有効活用も許されず無為に過ぎる時間に焦燥を堪えていた。
 空調すら静粛な空間に思わず吐息が漏れる。
 そこで彼女は汗を掻いた左右の掌に数カ所、発疹が現れてる事に気づいた。
 脈に合わせて発疹は疼く。
 何時から?
 会見場に入った時には無かったはず。
 原因は?
 心当たりはあった。
 身柄を拘束された病院で注射された薬物。
 製造元が解散したはずの搭載少女製作委員会だった標識には名義抹消剤と記載されていたが何か違う物だったのではないか?

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| カニューシャ | 20:34 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻38
 服の下、臍の傍を這うより対線の感触で遊ぶヨツユの手を冷たい手が掴んだ。
「今の、誰です?」
 口では何も言わなかったが怒気を含んだ音声でキミハはヨツユを問いただした。
「部下の子。
 仕事の話」
 より対線にまみれ付け爪だらけの伴侶の手をヨツユは、のろのろと握り返した。
「上手くいったんですか?」
 掛け視野を装着したまま栗色の髪の年上を見上げる黒髪の少女の視界を冷静に共有しながらヨツユは言った。
「そりゃもう。
 被疑者同士の通信は神秘的だし、記憶媒体の摘出手術で病院は大繁盛だし、待ち時間に尋問したら素直に黙秘するし」
 ヨツユは背もたれを使って仰け反った。
 看護服越しに強調されるヨツユの胸に掛け視野を装着したキミハは小首を反応させた。
「だったら身体に聞いてみましょう」

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| カニューシャ | 17:27 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻37
 ルルイの後ろには診察台に拘束され掛け視野で目隠しされ防声具を噛まされた少女。
「雛たちの走査、完了いたしました」
 ルルイを映す正六角形画面に隣接する形で正五角形画面が現れて帯図表を表示した。
「走査可能な雛は七十体でした」
 走査不能の十数名を表す短い帯から注釈線が伸び、新たに六角形の画面が現れる。
 昏睡状態であるにも拘わらず遠隔操作を警戒した職員によって社会見学用の服装のまま病室の寝台に拘束された少女達の様子が画面に映っていた。
 掛け視野を装着せずヨツユの音声しか受信していない部下は報告を続ける。
「行ったのは、真偽査問と漢字変換走査です」
 それぞれに関する詳細を示す画面がヨツユの視界に咲き乱れる。
 正六角形と正五角形を組み合わせた画面は既に球形全方位画面の片鱗となっていた。
 名義上は特務員ながら事実上監視対象の少女の様子を見落とさない様、その無抵抗な腹部を愛撫しながらヨツユは全項目を確認した。
 事務的に告げる。
「了解。
 捜査方針を第三象限に変更。
 別経路の探索を開始されたし」

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| カニューシャ | 17:46 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻36
 開発工程表の最終更新日は、ヨツユが初めて閲覧した時と変わっていない。
「失踪後も研究を続けていたとすれば。
 少女蒔きも可能か」
 そして都庁取締役選挙に出馬した才脳技術反対派へ布恐活動を行った?
 技術的に可能でも動機と手口に納得出来ずヨツユは視界に浮かべた走り書きの推理を眺め耳に受話器を当てたまま首を傾げた。
 悩ましげなヨツユの視界に速報が入る。
 姫房 流涙(ひめふさ ルルイ)。
 認証の成功を示す朱色に縁取られた正六角形の小さな画面の中で診察室の天井にある監視装置を見上げているのは、着用した白衣から襟飾りを覗かせた御下髪新米検索官だった。
「深旨先輩、姫房です」
 看護士姿の特務員は右耳に填めたままだった聴取器を確認した。

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| カニューシャ | 17:01 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻35
 顕わになるのは少女を詰めた簡素な球体。
 監視装置、空調、蓋としての役割を兼ねた天井の光源は体操着の様な高吸水性樹脂の囚人服を着せられた女子を煌々と照らしていた。
 疲れ果てた黒髪に畳字「〃」を2つ作る勾玉型の髪留めは右脳側は赤く左脳側は青い。
 柔軟体操を始めても延ばした指が壁に触れてしまいそうな狭い球体に閉じ込められた少女は排水溝の蓋の上で膝を抱えて、目に掛かる前髪の隙間から裸足の爪先を見つめていた。
 ヨツユの内心を知る由もなく映像を共有する検索官は同い年の少女を見下し言った。
「重要参考人、中乃 稀美葉。
 首都圏で流通し始めた配信麻薬は彼女の才脳と互換性を持つ規格でした。
 鍵持は、常習者なら誰でも操縦出来ます」
 さらに検索官は一枚の写真を取り上げた。
 掃除を終えた水泳場で体育水着に身を包み水鉄砲で武装した少女達の祝賀行列。
「搭載少女解散当時、実用的な操縦は一人で限界だった様ですが、御覧の通り同時多数操縦の臨床実験も始まっていました」

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| カニューシャ | 17:56 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻34
 光線と記号で書類や映像を規格通りに結んだ資料相関図を一瞥したヨツユは投影幕の横に立つ年下の御下髪検索官を叱りつけた。
「民間企業の研修生じゃあるまいし。
 どうして公開資料と写真しかないの?」
「委員会は学術的な団体でしたので研究内容のほとんどは公開資料です」
 数ヶ月前までは叱責される度に萎縮し化粧室に篭もって泣いていた新人も口答えの要領を覚えた様だった。
「音声や電文の盗聴記録は?」
「彼女達は口や機器を使わず言語野に才脳を増設して会話します。
 音声も電文も残りません」
 搭載少女達による会話せず微笑みあうだけのお茶会を検索官は映写した。
 校舎の屋上らしき金網で囲われた会場は茶屋に置いてある様な長椅子や傘が並べられ生徒達は紅茶や抹茶を思い思いに楽しんでいた。
「それ法的には暗号でしょ?
 解読装置の届け出義務は無視だったの?」
 ヨツユは付け爪で検索官を指した。
「規格策定中でしたので義務はございません」
 ヨツユは苛々と机上に投影された機能表を付け爪で引っ掻いた。
 透明樹脂の外殻表面を電波遮断用の金網に覆われた球形留置場がヨツユの目前に浮かぶ。
 ヨツユは手慣れた指先で機能表をつま弾き、実空間座標に投影された無用な物体を殻を剥く様に隠蔽していった。

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| カニューシャ | 17:11 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻33
「他人の身体を遠隔操縦出来るカニューシャは鍵持先輩だけなんです」
「遠隔操作って制限は無いの?
 認証も無しに問答無用なの?」
 搭載少女制作委員会名義で官庁に提出された臨床試験報告書をキミハは開いてみせた。
 見覚えのある書類にヨツユの視線は速い。
 正常な搭載少女であればコチラからの操作に対して透明化や拒否表明を行う事が出来る。
 しかし、一斉飛び降りを図った女子生徒達の様に新型共有剤を接種した予期せぬ形式のカニューシャや、不正侵入等で権限を改竄された搭載少女であれば、その保障は無い。
 コチラは回線上にいて認証を解決出来る全員を操作出来る。
 ただしコチラの様に専用の才脳を搭載していても双方向な処理に関しては作業内容の複雑さや人数に限界がある。
「公式発表以外に資料は無し、か」
 委細を眺める真似をしながらヨツユはキミハを預かる直前に出席した会議の読み辛い捜査資料を思い出していた。

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| カニューシャ | 19:51 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻32
「凄い名前」
 株式奨学制度が広まると共に改名で差別化を図る資産学徒は珍しくなくなった。
 ヨツユの様に管制上の都合で組織から改名を命令される者もいる。
 どちらの場合でも無関係な人間と同姓同名になってしまわない様に気を遣う。
 それでも搭載少女達の名前には関わって半年以上経った今でも慣れなかった。
「みんな、才脳に合わせて改名しました」
 照度を落とした船室に浮かぶ写真全てに署名が入っている事にヨツユは眼を細めた。
 駆瞳 得離絵(くどう エリエ)。
「写真は十分だから推理の委細を頂戴」
 足を組み直すヨツユの言葉に答えて給仕するキミハが開いたのは一巻の動画だった。
 どちらも何故か開けっ放しにした試着室に入ったコチラとキミハが二人とも左側を向いた状態で同時に腰の帯革を締めている。
 間仕切りを隔て共に自室の姿見へ向き直ると鴇色の髪を束ねているコチラまで黒髪を掻き上げるキミハと同じ仕草をした上で襟飾りを締める手つきまでもが揃っていた。

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| カニューシャ | 19:10 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻31
「コチラ先輩なら実現可能です」
 キミハは一件の個人情報に添えて何十枚もの写真を列挙した。
 キミハより何歳か年上らしい少女。
 毛母設定剤で根本まで完全に鴇色にした髪を小振りの脊椎を連想させる幾つもの髪留めで束ねて白い上着の背中に垂らしていた。
 髪の生え際から頭飾りの様に右脳側、左脳側、中央と務歯留め具を三つ垂らしている白い富士額に、小さな朱色の発光素子を一粒埋めこんだ女子学生は撮影に気づいたらしい一枚で柔和に微笑んでいた。
 大勢の後輩達を引き連れて廊下を早足に歩く大脳仕様学の権威。
 雑誌に載る才脳搭載技術実用化の第一人者。
 会場で才脳を実演し認可を訴える経営者。
 搭載少女製作委員会委員長。
 鍵持 故治螺(けんもち コチラ)。

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| カニューシャ | 17:56 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻30
 視界では発射された緊急用救命投網が飛び降りた来館者を次々と生け捕りにしていく。
 笑顔のままあられもない体勢で網に絡め取られる女子生徒達。
 そんな中で一人だけ捕縛の衝撃で顔を歪める小柄な少女にキミハは注目した。
 画像を引き寄せると頬の綿布に血を滲ませた怪我人は手足を絡め取られたまま再発したらしい骨折箇所の痛みに身をよじっていた。

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| カニューシャ | 15:49 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻29
 色とりどりの抽出輪郭で縁取られ降りかかってくる少女達に忙しなく付けられる注釈をキミハは素早く読み取る。
 学籍番号の下三桁、名前、生年月日、本籍、連絡先、部屋番号や時価総額は目まぐるしく変わっても、上場先、名字、性別、国籍、学年は変わらない。
 巻き戻して再度。
 キミハは落下する少女達の表情に注目した。
 どの子も笑っている。
 悪のりしたという感じではない。
 自棄になっている様子とも違う。
「演技する選手の笑顔」
 視野を共有しつつ受話器を耳に当てたままのヨツユはキミハの呟きを聞き逃さなかった。

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| カニューシャ | 15:45 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻28
 それは無数の防犯映像を隙間無く張り付けた円柱形の空間だった。
 見上げれば日差しと青い環状の硝子天井が目映い虹彩冠会館。
 静止した正午丁度。
 見下ろせば一階では取締役選挙に出馬した化粧の濃い女が水路で縁取られた円形舞台の中央に取り巻きを従えて立ち、大げさな身振りで自分説明会に陶酔している。
 キミハは比喩色で染めた図を視界に呼んだ。
 虹彩冠会館各階箱庭図。
 屋内電波中継局に不正な記録無し。
 該当建造物を中心とした地域電波状況。
 建物外からの不正な干渉記録無し。
 信用調査会社で記録の質を問い合わせる。
 難易度と状況から考えて改竄無し。
 円筒状に構成した再現映像を再び見上げる。
 既に一人目が手すりに脚を乗せている。
 有線で通信を行っていた痕跡無し。
 キミハの指示で映像は動き出す。

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| カニューシャ | 17:21 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻27
 ヨツユは机から掛け視野を取り出すと前髪を気にしながら身につけた。
 キミハは既に掛け視野に映像を回していた。
 遮光率を敢えて抑えた視野には硝子に寝そべり静かに呼吸するキミハと彼女が構築した再現空間が重なって見えた。

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| カニューシャ | 18:17 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻26
 才脳を発揮するキミハの高鳴る鼓動に合わせ極光は雛形を覆う。
 新たに開かれた画面では既に高度を上げていた飛行艇から見下ろす実空間首都へキミハから生成された使い雛達の像が大胆にも頭から飛び込んでいく。
「あんまり遠くに出掛けちゃダメだからね?」
 作業を中継する投影板は横たわるキミハで見づらく、かといって多関節の支持腕を引き出して脇に動かしても監視対象の様子を見逃す恐れがある。

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| カニューシャ | 19:50 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻25
 破壊活動防止庁特務員として許された権限をキミハは最大限に発揮した様だった。
 極光の波紋は床に幾度も発射され都の模型は発光素子の同期でそれに従っていた。
 ヨツユは電話越しに命じる。
「さぁキミハ、先輩達は何処?
 虹彩冠会館で女の子を蒔いたのは誰?」

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| カニューシャ | 18:02 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻24
 カニューシャ。
 早すぎた世代に降りかかった災いを知って
いてもヨツユは確信していた。
 伝統を置き去りにした自分にも捨てられな
い才能を呪う時が訪れるのだ。
 才脳を搭載した少女達が無言で談笑する駅
で孤立する日が。

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| カニューシャ | 20:13 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻23
 口を経由しない発声であるせいかキミハは無駄に長い専門用語も淀みなく言った。
「じゃあ全部本音という訳じゃないんだ?」
「本音は身体感覚を共有しなきゃ駄目です」
 今までの人形めいた雰囲気は何処へやら。
 キミハは器用に笑い声を送話した。

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| カニューシャ | 16:36 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻22
 掛け視野に目隠しされ夢見る様に唇を噤んだままの少女の無防備な黒髪を弄びながらヨツユは「凄い世の中になったんだねぇ」と年寄りぶって見せた。
 煩わしそうに旧式の電纜に身じろぐ目の前の少女は非加入者には分からない世界にいる。
「厳密には直に、じゃないんです。
 抑制用の才脳や定着させた公共回線用対面
回路を経由してるんです」

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| カニューシャ | 11:31 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻21
 ヨツユの組んだ腿に付けた極薄さらさらな銀色の携帯電話が持ち主を呼び出した。
「もしもし、キミハ?」
 返ってきたのは、愛らしい声だった。
「はい、こちらキミハです。
 ヨツユさん、私の声、どうですか?」
 使い慣れない受話器のくすぐったさにヨツユは片目を閉じたくなるのを堪えた。
「回線明瞭。
 本当に言語野から直に送話出来るんだ?」

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| カニューシャ | 18:41 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻20
 その上空で制止した様な机はキミハに繋がる無数の電纜を宙に伸ばしたまま音もなく再び透明化した。
 イルカの鳴き声に似た音と共に机から極光色の波紋が次々と広がっていく。
 切子硝子の椅子に座りヨツユは自分に供された様なキミハを見下していた。
 キミハの付け爪はいよいよ忙しなく文字を瞬かせている。
 右手親指の付け爪に数字が次々と瞬きヨツユもよく知る一意な番号を指定した。

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| カニューシャ | 19:23 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻19
 表面投影を止め透明に戻った厚い床材の下。
 埋設されたそれは色取々の合図素子が夜景の様に瞬く情報化都市の神経模型だった。
 天空建築、天空有線網、電波塔、交通網、電力網、環境監視網。
 公園は低く疎、高層住宅は高く疎、商業施設は高さを問わず密。
 実世界建築を反映するだけに見えてその実、埋め立て地の放送局等は床を突き破りそうなほど巨大で高密であり立体模型は送受信の密林を適切に表現していた。

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| カニューシャ | 17:29 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻18
 暗闇の中では目映い光源となる投影板が寝そべる少女を照らして黒髪や上着を縁取る。
 何故か三つ指を揃えるキミハの付け爪にカナ文字が次々と瞬き、投影板に打電していく。
 足下に隠された機能が一斉に発光した。

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| カニューシャ | 17:13 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻17
 ヨツユが付け爪で投影板を引っ掻くと巨大な襖の動きを連想する視覚効果で見晴らしの良い船室の窓が見る間に遮光状態へと替わる。
 閑散とした社屋に似た船室は暗く閉ざされ光源は中央に浮遊する硝子の机のみとなった。

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| カニューシャ | 20:00 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻16
 さらに左右の外耳道に填められていた聴取器は、有線仕様の新品を開封して挿げ替えた。
 最後に五叉の電纜二組を取り出し先端の鰐口金具で十枚の長い付け爪それぞれに繋いだ。
 ヨツユは無言無抵抗のキミハに覆い被さる様に机に手をつき画面だらけになった投影板に向かって手のひらで追い払う仕草をした。
 最下層に隠れていた室内制御画面が現れる。

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| カニューシャ | 17:09 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻15
 ついで、機器にはめ込まれた防塵蓋を全て開くと色とりどりの電纜を引っ張り出した。
 ヨツユはそれらを端子だらけにされているキミハの要所要所に手際よく挿入していった。
 勾玉型髪飾りに備わった各端子に一本ずつ。
 信号を供給されて髪飾りは明滅を始めた。
 丁度こめかみにある掛け視野の端子に一本。
 掛け視野が再び遮光状態に切り替わった。
 微動を補正しつつヨツユの胸元で揺れる箸置きを映す投影板に『有線』と注釈が入った。
 机に係留する様にほっそりした首に填められた首輪に設けられた蓋付き端子にも一本。
 被災時用の身分証明や各種連絡先、保険の加入状況が所定の書式で子細に提示される。
 仰向けにした襟元から感触を頼りにヨツユが指を入れて取り出した暖かな端子にも一本。
 体温、心拍数、血圧と医学的な項目を波形にして列挙した画面が投影板に追加された。
 着衣は捲らずに太股を這う端子にも一本。
 緊張、得意、羞恥等の感情成分や使途不明な生理的情報までもが投影板に可視化される。

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| カニューシャ | 17:23 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻14
「いいから靴も乗せなさい」
 踏ん切りの悪い犬を叱る様にヨツユはキミハの両足首を持ち上げると光沢のある黒い靴を硝子の机上に押しつけた。
 ヨツユが机の下に指を伸ばし、現れた赤い光線を爪弾くと甲高い効果音と共に塗料で隠蔽されていた電子機器がずらりと暴露される。
 最先端の医療機器とも開発途中の情報家電ともつかない、それらの電源ツマミを常用の手順通りにヨツユは次々と跳ね上げていく。

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| カニューシャ | 12:47 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻13
 黒髪や胸元、身に付けた機器をかばいながらキミハは机に寝そべった。
 平らな机上に横たわると地味な制服越しにも少女の発育が見てとれた。
 さすがに土足を机に乗せるのは気が引けたのか黒い靴下でぴったりと覆った踝を机の縁に引っ掛けてキミハは靴を脱ぐ事も出来ず持て余している様だった。

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| カニューシャ | 17:27 | トラックバック:0コメント:0
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壱意再帰

  • Author:壱意再帰
  • 同人小説の発表だけでなく作詞も行うので「文芸」サークル。
    感想ブログも兼ねています。
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