文芸サークル「名で充ちた空」ブログ

名で充ちた空

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東方地霊殿妖精級(EASY)博霊霊夢 伊吹萃香,射命丸 文クリア!
以下、ネタバレです。
[東方地霊殿妖精級(EASY)博霊霊夢 伊吹萃香,射命丸 文クリア!]の続きを読む
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| カニューシャ | 22:01 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻62(第2巻完)
「あひゃんッ!」
 共有剤の酷使と運動野剥奪で、二日酔いの
様なむかつきと寝たきりになる程の筋肉痛に
襲われていた榻摩トソに贈り物が届いたのは、
事件の翌日だった。
 監視についていた破防庁職員の承諾を得て、
荷物を受け取ったのはトソの姉であり上司で
ある榻摩テジホだった。
 手袋をした破防庁職員が封を開けると、愛
らしい胸当て数点が入っていた。

---
 ひとまずここまでで、カニューシャは終わりです。
 打ち切りみたいなもので。
 今後は、この世界観で何か試したいことがあれば、
 短編集的に書くこともあるかも知れません。

 ユビキタスパンク+少女の描写を書いている時が一番楽しかったです。
---
カニューシャ
第2巻61
「カニューシャ」を、はじめから読む
| カニューシャ | 00:58 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻61
 偽看護士の手錠で入念に拘束された生身の
中乃キミハを余所に。
 榻摩トソに憑依した黒髪の少女は、建造途
中の天空建築、その屋上の鉄骨に直立した。
 都内各所の望遠撮影装置が覗く中、暮れな
ずむ夏の空に両手を広げ、目を閉じた。
 カニューシャ、流出。
 まず、才能搭載技術の利害関係者の名簿、
技術の再現に必要な文書が平文で発信された。
 共有剤の有効距離を才脳で増幅した榻摩ト
ソの身体を空中線にして。
 そして潜伏したカニューシャに対する連絡
らしき暗号文が発信された。
 中継器こそ「雷雨」で封鎖していたものの、
破防庁は情報は流出したと結論付けた。

---
カニューシャ
第2巻60
「カニューシャ」を、はじめから読む
| カニューシャ | 00:52 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻60
 --榻摩 鳥素の俊足は、共有剤で強化さ
れたものと考えられる。
>そうね。
 --人工視覚を経由した榻摩 鳥素の姿が
全て、中乃 稀美葉の映像になっているのは、
中乃 稀美葉の使い雛が監視を逃れ、榻摩 
鳥素を操った為と考えられる。
 --榻摩 鳥素が才脳を搭載していた事は
想定外だった。
 --榻摩 鳥素は、二週間前に業務中の怪
我で通院しており、通院先を検索対象として
緊急閉鎖した。
>そうね。
 --才脳搭載少女制作委員会に直接関与し
ない利害関係者についても、カニューシャが
存在しないか緊急に再検索する必要がある。
>そうね。
 --また、榻摩 手慈穂の協力については、
未知の情報源の利用が推定され、別途調査す
る必要がある。
>そうね。
 状況を自動認識する使い雛に自分の考えの
候補を提示させて承認する。
 入力予測の進歩の果て。
 簡単に報告書を作成出来る様になったが、
文章作成を通し自分を見つめ直すという機会
が、便利さと引き替えに失われる為、ヨツユ
は疲労した時以外、この機能を控える様にし
ていた。
 突如、格闘を挑んできた中乃 稀美葉--
恐らくは彼女の脳内に潜伏していた中乃ミキ
ウナ--を辛うじて押さえつけ、広い室内に
ぽつんと荒れ果てた机に腰掛け、ヨツユは徒
労に顔を覆った。
---
カニューシャ
第2巻59
「カニューシャ」を、はじめから読む
| カニューシャ | 00:31 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻59
 --どうしてキミハ様が、こんな所に?!
 と言う戸惑い。
 しかし、同時に、榻摩家の姉妹が全世代全
力で考えたキミハ様奪還企画は、やはり奇跡
を起こしたのだと言う興奮を覚えた少女は、
脳内に唐突な言葉を送りつけられた。
「飛ばせて!」
「えっ?!」
 それでもキミハの意図を出来たのは、共有
剤の興奮と、夕焼けの空を画面にした、見本
の画像だった。
 --あっ!
 立ったままの彼女にもたらされる早い鼓動
の割り込み。
 急にあたりが眩くなり、少女は跪き、両の
手のひらで靴底を待ちかまえた。
 彼女が作る両手の踏み台を蹴り、キミハは
軽い体重に任せ、跳躍した。
 驚異的な跳躍力で空中回廊の手すりに細い
手をかけ、背中の反りも華麗に着地。
 そのまま建造中の天空建築に走り出した。
「--どちらへ?!」
 急性の興奮でめまいを覚えながらも、彼女
は辛うじて姿勢を保った。
 眩し過ぎる視界に苛立ち、掛け視野を外し
た少女は、その瞬間までキミハだった人影に
驚愕した。
「--トソ?!」
 久々に見る表示の無い夕暮れの空中回廊を
陸上選手の様に洗練された身振りで走る後輩
に、彼女は胸を押さえたまま、立ち尽くすし
かなかった。

---
カニューシャ
第2巻57
「カニューシャ」を、はじめから読む
| カニューシャ | 13:58 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻58
 破防庁の緊急体制は、都心各所に影響した。
「雷雨だ」
 誰ともなくふてくされる女子の声。
 破防庁の公開業務は、破壊活動を検出する
と優先度の低い要求を一斉に遮断する。
 通称、雷雨。
 頻度もそれに似ている。
 「雷雨」でも個人の記録装置に蓄積してい
たものは、掛け視野に残る。
「ごめん」「班長として命令したも同然だか
ら」「身体はもう平気?」「怪我は痛む?」
「少し休もう。それから、これからの事を話
し合おう」「私は頑丈だから」「姉より」
 トソ宛ての応答集を推敲する字幕が回遊す
る様を夕焼けに見上げて彼女は、自力では謝
ることすら出来ない自分に息を吐いた。
 彼女にとって、トソは二人目の妹だった。
 元々は研究開発部門にいたらしいトソは、
とても華奢で弱気で、危険に対する反応が鈍
い妹だった。
 物流の仕事で一寸体力を使う作業に当たら
せたら、芸術的とも言える不注意で安全対策
の隙間に入り込み、機械に轢かれて骨折した。
 熱血、猛烈、堅牢が信条だった彼女にして
みれば異星人の様だった。
 時々、どうしても触ってみたくなるけれど、
彼女の幸せは、愛する自分の部署には無いだ
ろうな、と思う。
 --きっと、見送らなければいけない子。
 と、そこに歩行者向けの緊急警報が鳴った。
 彼女は、聴取器の定位に振り向く。
 掛け視野が輝線で輪郭を強調するのは、長
い黒髪を夕焼けに煌かせる俊足の少女。
 暮れなずむ街路で髪飾りの勾玉が強く発光
しているのが分かる。
「--キミハ様?!」
 破防庁に隠されているはずの人物が、明ら
かに彼女目指して駆け寄ってくる。
「何で今度は追いつかないのよー!」
 何処かで地団太を踏む少女の声が聞こえた。



---
カニューシャ
第2巻57
「カニューシャ」を、はじめから読む

そう、いっそ諦めればいいのに、忘れた頃に創作を再開するのが「名で充ちた空」。
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を「掛け視野」と訳して使い始めたのはいつの日だったでしょうか。
「電脳メガネ」という分かりやすい言葉で世の中に実空間指向インタフェースを認知させた電脳コイルでは、次回で「捨てる」話になりそうですよ。
| カニューシャ | 21:55 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻57
 --釣ラレタ?
 起床直前の夢に似た刹那の遊泳でミキウナ
は、網に掛かった己を悟った。
 回線接続直後、つい巡回してしまう経路を
破防庁は、ほぼ把握していたらしい。
 居場所を見つけられない代わりに用意した
らしい、異口同音の書き置きが、巡回先に直
結したミキウナの脳に浴びせられる。
「やあ、またかな?」
「今回の一件では、ミキウナさん、駆動した
くなるような文脈を感じたと思うんだ」
「でも忘れないで欲しい。
 我々、破壊活動防止庁は、不幸の肯定に容
赦しない!」
 配信麻薬の問題を取り上げた報道映像の諄
い演出に、少女は闘争本能のまま罵倒した。
 --嘘吐け、改善バカ!

テーマ:同人小説 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 22:59 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻56
 ルルイは反応負けした。
 トソは、その太腿や脹ら脛からは信じられ
ない瞬発力で車両に駆け込み、跳んで、湾の
見える網戸の車窓を突き破った。
 --飛び込み?! いや、飛び降り!
 真下は海では無い。
 顔面蒼白で網の破れた窓に駆け寄ったルル
イが見たのは。
 駅と交差する車道を走る貨動自動車の荷台
で受け身から立ち上がる巻き毛の少女。
「計算尽か!」
 少女蒔き応用版!
 ルルイは理解した。
 涼を目的とした網戸は、寄り掛かりの常態
化を避ける為、車両の異常加速を検知しない
と人間の体重を受け止めない。
 網戸へ不用意に接近する乗客を警告するだ
けで安全は確保出来ていた。
 押し合いになる様な混雑時には冷房用の窓
に切り替わる。
 幼児は一般車両に乗らない。
 破防庁が道徳を守る都では鉄道会社も泥酔
客の狼藉を考えない。
 車両の網戸は確かに突破出来る。
 そして。
 走る発信器である貨物自動車の位置は子供
でも把握出来る。
 保険会社は酔狂な自殺以外も想定していな
ければならなかったのだ。
 器物損壊の発生で車内に警報が響く。
 そしてルルイはトソの異常に気付いていな
がら格闘の心構えしかしていなかった自分の
浅はかさを悔やんだ。
 夕凪の時刻も過ぎ、打ち水も済んだ発着場
に止まる電車内は吹き抜ける風が涼しかった。

テーマ:同人小説 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 11:12 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第2巻55
 青い身体に戻っていく。
 誰にも捧げていない身体に。
 狼ゴッコで済んでいた頃に。
 同じ身体で悩むキミハの姿見に、追憶として映るばかりだった彼女は、鏡面を超えた。

「颯爽と危機管理!
 ミキウナ母さん登場!」
 全身に装備を付けたままガバッと上体を起こし、机の上で自分自身を熱烈に抱き締めるキミハをヨツユは唖然として見た。
 それこそ電波でも受信した様に豹変した黒髪の少女。
 彼女は特撮活劇の主人公の様に大声で名乗りを挙げた。
 ミキウナ。
 キミハの母。
 中乃 御起有奈。
 才脳搭載少女制作委員会初代委員長。
 その肉体を確保してあるにも関わらず破防庁の網に無数現われる不可解な女。
 娘の周囲に出現する確率が高いとしてキミハの身柄を確保、適当な名目で囮にすると言う作戦に対しヨツユは無謀と考えていたが。
「釣れちゃった?」
 黒髪を飾る勾玉が一組だけ、点灯している。
 キミハに装着した逆探用の機器迷路が証明している。
 もう一人のミキウナは娘の直ぐ傍。
 文字通り脳内にいた。

| カニューシャ | 18:05 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻49
 コウヨウコに招かれて榻摩家へ移籍する以前、シズワタには七歳で上京して以来の筆頭保護者がいた。
 その女性はシズワタの実母でもあった。
 競争を美徳とする都に相応しい女性だった。
 経歴を重んじ健全を欲し睡眠を蔑んだ。
 彼女は都内に二人分の居住権を持っており、都内私立校に学籍を置くシズワタは寮ではなく自宅から登校していたが家庭内で行われた躾は寮生から聞く研修より厳しかった。
 居眠りすれば育児用品の放電で起こされた。
「早くしなさい!」
 と響く罵声が聞こえると、それが自分に向けられた言葉では無いと分かっている時でも幼いシズワタの顔からは血の気が引いた。
 だが、そんな自分の実状を級友と見比べても憎悪は無く、シズワタは母を愛していた。
 上場家庭に義務付けられた毎月の監査で、べったりと母に甘えて見せるのが好きだった。
 進学、表彰、誕生日の度に母が手渡す祝い物は必ずシズワタの好みに合った。
 シズワタはその事を母からの愛だと信じ、自分の心を言い当てる母を尊敬した。
 シズワタに関する全個人情報を管理する権限を持ち、通販会社に専属担当もいた母にすれば簡単な定型作業なのだと気づいた後も、最良を選択する母の愛だと信じた。
 シズワタは、その愛に応えたかった。
 夏期、冬季、春期の休業には、全学年兼用の机を教室に並べ換気窓を板簾で覆った学習塾で、一括契約した弁当と廊下に据え付けられた給水器で飼育されながら競争に励んだ。
 利発な受け答えや愛くるしい仕草は、小遣いを叩いて検索しては練習して身に付けた。
 食事をしながら母の愚痴に相槌を打つ時間がシズワタには貴重だった。
 商戦の失敗や訴訟等で夜中、啜り泣いている母を目撃する事もあった。
 初めて目にした時、不用意に言葉を掛けて慰めるつもりが怒らせてしまった事から、気付かない振りをし続けたが、何時かは上品な劇の様に母を優しく抱く娘になりたかった。
 それがシズワタの夢だった。
 番組、連載、市場が夢を胸に秘めたシズワタの真摯さと懸命さを褒め称えた。
 資産学徒に対する世間での盛り上がりから、最年少記録を一気に更新してシズワタを成人認定しようと言う話も有った。
 しかし、あどけない少女に不相応な健全性は、思春期に入ったシズワタを徐々に苦しめる様になった。
 保護者や世間が年頃の娘に求めるのは、純朴な可愛らしさでは無く、発育と共に綻ぶ一生の内で最も傲慢な魅力だった。
 道徳的な行動を察する能力では無く、時に学業より恋愛を優先し保護者を驚かせる様な意外性を持つ娘が高い評価を受けた。
 シズワタが身に付けた快活さは、成長と共に子どもっぽいと言う否定的な評価を受ける様になった。
 肝心の学業も上京する資産学徒の増加により相対評価では伸び悩んだ。
 進路を報告する保護者総会で、他者と比較した写真を交え、衣装に合う体型に育っていないと個人保護者から酷評されたシズワタは、変化に取り残された自分を思い知った。
 以前は容姿や発育についてそれほど厳しく求められる事は無かった。
 内申書に書かれた抜きん出た成績を強調すれば会が長引く事は無かった。
 合格順位発表以来、続落している時価総額に破綻寸前だった自負心は、シズワタの化粧に細々と要求を捲し立てる筆頭保護者の声に耐えきれなかった。
 前日、シズワタの進学式にやって来た母の態度から指摘される事は判っていた。
 それでも母親にとって晴れの舞台であろう子どもの入学式に恥を掻かせてしまった申し訳無さと自分に対する情けなさでシズワタは涙が止まらなかった。
 業績回復を誓ったシズワタは、それまで以上に睡眠時間を削る様になった。
 深夜、机に囓り付くシズワタの部屋からは少女らしい飾りも慰めも一掃されていた。
 机や棚、寝台に並べていた母からの贈り物も次々と競売にかけて処分してしまった。
 ただ一つ、有り触れた古い大きなぬいぐるみだけは競売不成立で送り返されてきた。
 それだけが部屋の片隅に梱包材で固められたまま残っていた。
 化粧は上達する為だけに買い漁った。
 鏡に向かう時だけ背景等映っていない様にシズワタは華やかに微笑んだ。
 毎月、経済指数に怯えながら通学し続けたが、新年を迎える頃にはシズワタにも明るい兆しが見える様になっていた。
 元日、母の長電話を待つ間、晴れ着の着付けと化粧を済ませたシズワタは何を諳んずるでも無く家の前で晴天を見上げた。
 競争なら勝ってみせれば良い。
 きっと私はこれからもこうして生きていくのだと、シズワタは静かに目を閉じた。
 だが三月を前に母娘の人生は一変した。

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| カニューシャ | 19:37 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻48
「それに、事前登録の無い相手と同衾すると寝室が気遣いを働かせて報告を誤魔化してくれるから」
 部屋の主は天井に据え付けられた半球状の装置を指さして嬉しそうだった。
 何故、そんな隠し機能をご存じなのですか、とは恐ろしくて聞けずシズワタは義姉に招かれるまま寝台に潜り込むしか無かった。
「私は、お暇しなければなりませんので。
 この格好のままでよろしいでしょうか?」
 怖ず怖ずと尋ねると睫毛の長い義姉は意地悪く目を細めた。
「どうぞ?
 一緒に裸じゃ恥ずかしいもんね」
 やっぱり責められている!

 破防庁に閲覧出来ない私事は無い。
 宿泊施設の警備用人工知能が誤魔化せたのは堅物の侍女長だけだろう。
「姫房をお仕置き。
 重要な記録を見落としていた件で」
 呼び出した予定表に付け爪でササッと入力するとヨツユは字幕表示にした映像を再び早送りにした。
 コウヨウコの世間話に落ち着きを取り戻したシズワタは告白を始めた。

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| カニューシャ | 19:31 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻47
 姉妹と言われてしまえば、シズワタは寝室に押し掛けた慌て者の義妹に過ぎなかった。
「申し訳ございません」
 面接下手にでもなった様に自分でも呆れる程の小声で言い、促されるままに立ち上がると、上得意を出迎える様に義姉は微笑んだ。
 寝台に向かう義姉の化粧着に透ける美麗な腰付に目を奪われる訳にもいかず、上品な間接照明で薄暗く保たれた部屋を見渡す素振りをしたシズワタは窓に見える夜景と思っていた物が別室に作られた模型であると気づいた。
 榻摩履歴を構成する根幹から末端まで各局の稼働状況を監視する論理構造模型が様々な合図素子を灯していた。
 寝室に繋がる応接間が華やかで、かつ若干少女趣味だっただけにシズワタは最高責任者の私室に感情のままに立ち入ってしまった非礼を改めて痛感してしまう。
 その部屋の主は、下着も無しに着ていた薄い化粧着を脱ごうとしていた。
「会長、何故お召し物をっ!」
 しーっ、と立てた人差し指を尖らせた唇に当て、真夜中の大声を咎める会長の仕草にシズワタはハッと自分の口を手で覆った。
「今、侍女長に気づかれてしまうと話が長くなってしまいますので」
 日頃の生活態度が想像出来てしまう悪戯っぽい小声に、シズワタも声を潜めて反論する。
「ですから、何故!」
 あまりの動揺に「脱ぐ」と言う動詞の使用が脳内で禁止されてしまったらしくシズワタはパクパクと口を動かすだけになる。
「この部屋の明るさ、中からは直接操作出来ないから。
 かといってこのままでは、侍女長に感づかれてしまうでしょ?
 部屋を暗くするには、中にいる全員が寝台に入ってみせないと」
 シズワタの寝室も構造は変わらない。
 会長の発想自体は不思議では無かった。
 しかし、シズワタは絶句と動悸から復帰出来なかった。
 この可憐な義姉が毎晩一糸纏わぬ姿で床に就いていると言う事に愕然としていた。
 義妹にあるまじき不埒な妄想付で。

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| カニューシャ | 19:56 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻46

 終日快晴となった七夕を二時間過ぎた時点。
 三十五区一高い天空住宅は石油依存から脱却した都に吹く清涼な夜風を環境由来空調とすべく、ゆっくりと帳壁を制御していた。
 その開放的な設計構想を実現する為に必須だった濃密な警備端末群はコウヨウコの風通しの良い特別室にも満ちており、彼女の無防備な寝姿を最適な撮影角度で録画していた。

「誰か!」
 コウヨウコは悲鳴と共に跳ね起きた。
 瞬時に反応した天井の半球型防犯端末は、それを寝台で魘されていた店子の寝言と判定して再び待機状態に戻る。
 天井の受像素材は再び現在の夜空を映す。
 月明かりの他は待機家電の合図素子が数カ所灯るのみの寝室で混乱に目を潤ませながら彼女は自分の裸を薄い夜具で包み直した。
 冷えた寝汗と得体の知れない惨めな気分にコウヨウコの身体は震えていた。
 察した空調が外気の遮断を決定する。
 身に覚えの無い大粒の落涙が始まって、そこで漸く彼女は状況に気づいた。
 共有剤を接種した誰かの感情を肌を通して神経系が受信している。
 信じ難いこの苦痛と涙は、その誰かの物。
 これほどの辛い気持ちは何に由来するのか。
 相手の記憶も共有出来る才脳搭載少女なら直ぐに分かるのだろうが、共有剤系カニューシャであるコウヨウコに、その機能は無い。
 寝台脇の卓子に置いていた掛け視野を装着し暗い手元に画面を呼び出す。
 繋いだまま眠っていたコウヨウコ以外に居たカニューシャは一名だけだった。

「申し訳ございません!
 大変失礼いたしました!」
 珍しく取り乱した様子で謝罪に現れたのは階下に住み込んでいる年上の秘書長だった。
 時間帯を考えるに仕事着を脱いで入浴も終えて床に就く直前だったのだろう。
 そこから急遽着替えたらしい彼女は初めて見る私服姿だった。
 来訪を察知して部屋は様相を変えている。
「シズワタさん。
 いきなり土下座されても分からない」
 祝福された肌だから許される簡単な洗顔をした後は電話越しにも悲壮だった相手の願い通り接続を切り寝室で待機していたコウヨウコは絨毯に額を擦り付ける年長者に困惑した。
 化粧着姿でシズワタに近づくと幼子に物を尋ねる様にコウヨウコは跪いた。
「責める為に呼んだのでは有りません。
 シズワタさん、私は貴方にとって年下の上司であるけれど、姉でもあるのです。
 どうか、姉を信じて欲しい」
 あやす様な言葉にシズワタは恐る恐る泣き腫らした跡の有る顔を上げ、直後に全身を硬直させて赤面した。
「?」
 妹もまた、長女の化粧着姿を見るのは初めてなのだと言う事を、コウヨウコは認識出来ていなかった。

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| カニューシャ | 22:06 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻45
「またやってしまった。
 何故、私は、これほど短気なのか」
 管制画面に表れた尋問用人工知能の自己言及にヨツユは吹き出した。
 ヨツユは自然言語で教師信号を送る。
「可愛いぞ、娘」

 写真に嘆息する者。
 出せない電文を綴る者。
 布団を被って空想に耽る者。
 静かで透明な破壊活動防止庁は、榻摩家女子寮の出来事を全て記録していた。
 終業時間と共に活性化する汚れた共有剤に染められた乙女達の漏れ出た呟きや慎みを忘れた文面、消灯した部屋で続いた物音をコウヨウコの面前に晒して人形は嘲る。
「挙げ句、逆上せ上がったお前達は破防庁相手に中乃 稀美葉奪回作戦を決行。
 作戦内容と成果は、まぁまぁだったな。
 我々も動き出すほどの周到な計画は、目的に合った人材を十分に用意出来る榻摩履歴だからこそ実現出来た物だ。
 だが。
 汚染を除去された今なら分かるな?
 動機はあまりに馬鹿げている。
 しかもそれは共有剤によって改竄された外来の動機だ。
 都合の良いカニューシャであったお前達は搭載少女によって踏み台にされた訳だ。
 回線も端末も都に満ちていると言うのに、何故、お前達はカニューシャになりたがる?
 今回の様な危険、まさか想定出来なかった訳でもあるまい?」
 コウヨウコの反論は、穏やかな口調だった。
「本格採用を決めたのは確かに私です。
 破壊活動防止庁の皆様は、その切っ掛けを既にご存じでは無いのですか?」
 何だと?
 コウヨウコに向けては無言で腕組みする姿を表しながら人工知能は日付を手がかりに監視記録台帳の検索を開始した。

テーマ:同人系 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 20:03 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻44
「少女蒔きは広報活動です。
 混雑した会場で来場者の方々に注目して頂くには、あの方法が最善です。
 会場の許可も得ておりました」
 『夏の学徒養育営利法人研究会』開催中の会館では資産学徒を目指す少女達が資料集めや面接に駆け回っていた。
 高価引取を夢見て上京した少女達は一週間の過酷な行事で常時大量の広告に晒される。
 優秀な応募者を集める為。
 各地方に帰り再び消費者となる不採用者達に自社への好感を植え付ける為。
 企業側は宣伝に趣向を凝らす。
 救命投網を制御し綺麗に着地するはずだった少女蒔きと、その後に予定されていた講演会は人材派遣業を得意とする榻摩履歴を印象付ける企画として会館の日程に含まれていた。
「わざわざ才脳技術反対派の頭上にか?」
「会場に不法侵入し無許可で選挙活動を始めたのは相手側です。
 選挙管理委員会は即座に罰金を決定し、二十四時間の選挙活動停止を命じています」
 票固めに苦戦する候補者が選挙活動に含まれない釈明会見と称して報道番組に名前と顔を出せる処分ではあるが違反には違いない。
「話が怠い。
 中乃 稀美葉を知っているな。
 公開資料や報道以上の事を知っているな。
 お前だけではない、榻摩の第五期生全員だ。
 この一ヶ月間、会った事も無い女に恋愛感情を抱いていたな。
 姉妹一丸になって、恋に溺惑していたな。
 カニューシャとして冒されて!」

テーマ:同人系 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 19:07 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻43
「ヨツユさん、私ひょっとして特務員として信頼されてないんですか?」
 会見場の映像も質疑の音声も中継不可にされたままのキミハはようやく上司の意図に気づいた様だった。
 許されたのは、対象の掌に定着させた生体無線局から漏洩する感覚をカニューシャとして盗聴する事のみ。
 つまりキミハは焦燥感や緊張、その緩和や急激な悪寒だけを机の上で自律神経系に受信しては悶える生身の嘘発見器になっていた。
 息は潜めようとしても乱れる。
「吐きそう。
 気持ち悪い」
 嘔吐寸前で堪える繰り返しに疲労し続ける。
 資本制民主主義に生きる貴人として教育された榻摩 幸容子の身体を内側から責め立てる緊張をキミハの全身は直接的に翻訳した。
 夏物の着衣から露出した肌は収縮し、拍動は促進され血圧は高まり喉の乾きに舌が動く。
 身体感覚の衝突も煩わしい機器で拘束されたまま俯せになる少女を苦しめる。
 黒髪や苦悶に歪む眉、硝子の机に押しつけた掌、肌着も脂汗に濡れていた。
 才脳を搭載しながら共有剤も接種していたキミハだからこそ起きる劇的な現象に装着した測定装置は敏感に反応しヨツユの投影板に定量化した弱音を送信し続けていた。
「言い出したのはキミハでしょう?」
 ヨツユは熟練の付け爪捌きで投影板に映る質問の方針を選択していく。
「不自然な緊張を感じたら教えなさい」
 視界の片隅に掛け視野が可視化したキミハの容体を無視する様にヨツユは受話器を片手に持ったまま使い雛の管制に没頭していた。

テーマ:同人系 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 18:20 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻42
「私どもの共有剤は麻薬ではございません。
 臨床実験での接種は薬事法に則るものです」
 発表慣れしたコウヨウコの淀みない言葉に使い雛は無表情に腕を組む。
「構成成分は配信麻薬と同一であろう?」
 不快感を表情で強調して少女は反論する。
「不正な設定が混入した特許侵害商品と一緒にされては困ります」
 冷徹な面立ちを持つ使い雛が応答するより先に睫毛の長い少女は伏し目がちに続ける。
「搭載少女製作委員会が感染災を起こし多数の失踪者を出した事は真に遺憾でありますが」
 写真撮影を想定して照明を浴びながらコウヨウコは毅然と顔を上げた。
「共有剤の臨床実験を担保として引き継ぐ事は計画出資者として当然の権利です」
 討論では不利になる事もある可憐な声を腹式呼吸と唇の形作りで精一杯勇ましくして年若い会長は会見場全体に向けて宣言した。
「だが反対派への布恐活動を行って良いと言う事は無い」
 映像人形の表情が変貌した。

テーマ:同人系 - ジャンル:小説・文学

| カニューシャ | 18:00 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻41
 社会人である事を忘れた様なコウヨウコの挙手で、質疑は開始直後から滞った。
 眉で怪訝を表しつつ人形は咎めない。
 コウヨウコはそれを親切だと解釈した。
「元は水源安保部隊にお勤めの方ですか?」
 その制服は大河紛争当時の物とお見受けしましたが?」
 状況やコウヨウコの立場を考えれば明らかに不適切な言葉だったが使い雛は応答した。
「如何にも。
 職業柄、気になると言う訳か?」
 榻摩履歴株式会社会長は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「恐れ入ります」
「履歴が気になるお嬢様に教えておこう。
 この制服は破壊活動防止庁と改正自衛軍の提携を意味する物ではない」
 傀儡は音声に合わせて口元を動かす。
「そもそも破壊活動防止庁等と言う機関は如何なる自治体にも民間団体にも存在しない」
 コウヨウコは、まぁ、と戯けて笑う。
 破防庁を知らない都民等いない。
 放送設備からの台詞は続く。
「存在しない結社と連携する予算は下りない。
 官公庁は予算に無い事はしない」
 公然の秘密と言う意味での否定では無く、本当に無関係であると伝えたいらしい。
 凜とした容姿の使い雛は右手の人差し指で自らの頬をむにっと押してみせた。
「提出した履歴書を元に支給されるのだ。
 この姿は」

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| カニューシャ | 17:54 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻40
 破壊活動防止庁が事態に介入している以上あらゆる改竄は否定出来ない。
 発疹は掌だけだったが鏡を持たない彼女に顔の無事を自力で確認する術は無かった。
 彼女の秘書は会見場から遠く離れた廊下に待機する事を命じられている。
 無援な彼女の不安は募る。
「最高責任者なのに良く躾られているな」
 会見場に声が降る。
 冠婚葬祭演出用の投影装置で会見場の暗闇に像を結び、軍装した女性型使い雛が現れた。
 清潔な純白の中衣に規律正しく着用した紺の上衣と下衣は改正自衛軍水源安全保障部隊の礼装用制服。
 仕立てがきちんとしているので目立たないが胸囲で夜会服に悩んだ記憶が無いコウヨウコですら敵わない程に胸の大きな使い雛である事は見て取れた。
 肩の階級章を隠さない程度に切った明るい栗色の鬘は緩く波打っている。
 破壊活動防止庁は改正自衛軍の組織系統とは全く別の団体であるはずだった。
 困惑するコウヨウコの胸中など知らない口調で使い雛は宣言した。
「破壊活動防止庁、円基軸首都連合局である。
 都民、榻摩 幸容子への質疑を開始する」

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| カニューシャ | 19:50 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻39
 この夏仕立てたばかりの黒を基調とした面接着に身を包み、会見場に一人、彼女は立つ。
 今年度に成人認定式を予定しながら未だ七五三の童女の様に柔らかな明るい色の髪を、たおやかな背で着る清楚な上着へ滑らかに垂らし壇上を照らす光に輝かせる彼女こそ第五期榻摩奨学生の長女にして榻摩履歴株式会社会長、榻摩 幸容子(しじま コウヨウコ)。
 生殖医療技術の規制緩和を受け超健常児を望んだ第三期主席奨学生二名を母とした受精卵から厳選された形質で生まれた第一子は代表取締役としての立ち姿にも恵まれていた。
 コウヨウコは施錠した会見場入り口に点灯する非常口案内用図記号を裸眼で見つめる。
 絢爛な会見場で豪奢な照明は彼女の立ち位置だけに輝き、後は、消防法を遵守する必要最低限の光源が淡々と灯るだけの暗闇だった。
 歩行者用暗視機能も備えた愛用の掛け視野は、聴取器や腕時計、指輪、膜翅状端末、閲覧用紙等と一緒に破防庁に剥奪された。
 携帯型管理全権局は剥奪を免れたが、休眠状態にする事を命じられている。
 カニューシャであるコウヨウコの肌身は、それだけで通信機能を持っていたが名義抹消剤を注射され操作権限を失った上に無線通信網との契約は凍結されてしまった。
 カニューシャ同士で私的に接触するか、或いは独自に通信網を構築しない限り如何なる送受信も不可能な状態だった。
 後は認証鍵としての生体に流通用の情報しか持たない着衣だけを許された孤立状態で彼女は破壊活動防止庁の尋問を待っていた。
 秒刻みで動き分刻みで収益を上げる事を定められた彼女は肌載器による有効活用も許されず無為に過ぎる時間に焦燥を堪えていた。
 空調すら静粛な空間に思わず吐息が漏れる。
 そこで彼女は汗を掻いた左右の掌に数カ所、発疹が現れてる事に気づいた。
 脈に合わせて発疹は疼く。
 何時から?
 会見場に入った時には無かったはず。
 原因は?
 心当たりはあった。
 身柄を拘束された病院で注射された薬物。
 製造元が解散したはずの搭載少女製作委員会だった標識には名義抹消剤と記載されていたが何か違う物だったのではないか?

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| カニューシャ | 20:34 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻38
 服の下、臍の傍を這うより対線の感触で遊ぶヨツユの手を冷たい手が掴んだ。
「今の、誰です?」
 口では何も言わなかったが怒気を含んだ音声でキミハはヨツユを問いただした。
「部下の子。
 仕事の話」
 より対線にまみれ付け爪だらけの伴侶の手をヨツユは、のろのろと握り返した。
「上手くいったんですか?」
 掛け視野を装着したまま栗色の髪の年上を見上げる黒髪の少女の視界を冷静に共有しながらヨツユは言った。
「そりゃもう。
 被疑者同士の通信は神秘的だし、記憶媒体の摘出手術で病院は大繁盛だし、待ち時間に尋問したら素直に黙秘するし」
 ヨツユは背もたれを使って仰け反った。
 看護服越しに強調されるヨツユの胸に掛け視野を装着したキミハは小首を反応させた。
「だったら身体に聞いてみましょう」

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| カニューシャ | 17:27 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻37
 ルルイの後ろには診察台に拘束され掛け視野で目隠しされ防声具を噛まされた少女。
「雛たちの走査、完了いたしました」
 ルルイを映す正六角形画面に隣接する形で正五角形画面が現れて帯図表を表示した。
「走査可能な雛は七十体でした」
 走査不能の十数名を表す短い帯から注釈線が伸び、新たに六角形の画面が現れる。
 昏睡状態であるにも拘わらず遠隔操作を警戒した職員によって社会見学用の服装のまま病室の寝台に拘束された少女達の様子が画面に映っていた。
 掛け視野を装着せずヨツユの音声しか受信していない部下は報告を続ける。
「行ったのは、真偽査問と漢字変換走査です」
 それぞれに関する詳細を示す画面がヨツユの視界に咲き乱れる。
 正六角形と正五角形を組み合わせた画面は既に球形全方位画面の片鱗となっていた。
 名義上は特務員ながら事実上監視対象の少女の様子を見落とさない様、その無抵抗な腹部を愛撫しながらヨツユは全項目を確認した。
 事務的に告げる。
「了解。
 捜査方針を第三象限に変更。
 別経路の探索を開始されたし」

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| カニューシャ | 17:46 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻36
 開発工程表の最終更新日は、ヨツユが初めて閲覧した時と変わっていない。
「失踪後も研究を続けていたとすれば。
 少女蒔きも可能か」
 そして都庁取締役選挙に出馬した才脳技術反対派へ布恐活動を行った?
 技術的に可能でも動機と手口に納得出来ずヨツユは視界に浮かべた走り書きの推理を眺め耳に受話器を当てたまま首を傾げた。
 悩ましげなヨツユの視界に速報が入る。
 姫房 流涙(ひめふさ ルルイ)。
 認証の成功を示す朱色に縁取られた正六角形の小さな画面の中で診察室の天井にある監視装置を見上げているのは、着用した白衣から襟飾りを覗かせた御下髪新米検索官だった。
「深旨先輩、姫房です」
 看護士姿の特務員は右耳に填めたままだった聴取器を確認した。

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| カニューシャ | 17:01 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻35
 顕わになるのは少女を詰めた簡素な球体。
 監視装置、空調、蓋としての役割を兼ねた天井の光源は体操着の様な高吸水性樹脂の囚人服を着せられた女子を煌々と照らしていた。
 疲れ果てた黒髪に畳字「〃」を2つ作る勾玉型の髪留めは右脳側は赤く左脳側は青い。
 柔軟体操を始めても延ばした指が壁に触れてしまいそうな狭い球体に閉じ込められた少女は排水溝の蓋の上で膝を抱えて、目に掛かる前髪の隙間から裸足の爪先を見つめていた。
 ヨツユの内心を知る由もなく映像を共有する検索官は同い年の少女を見下し言った。
「重要参考人、中乃 稀美葉。
 首都圏で流通し始めた配信麻薬は彼女の才脳と互換性を持つ規格でした。
 鍵持は、常習者なら誰でも操縦出来ます」
 さらに検索官は一枚の写真を取り上げた。
 掃除を終えた水泳場で体育水着に身を包み水鉄砲で武装した少女達の祝賀行列。
「搭載少女解散当時、実用的な操縦は一人で限界だった様ですが、御覧の通り同時多数操縦の臨床実験も始まっていました」

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| カニューシャ | 17:56 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻34
 光線と記号で書類や映像を規格通りに結んだ資料相関図を一瞥したヨツユは投影幕の横に立つ年下の御下髪検索官を叱りつけた。
「民間企業の研修生じゃあるまいし。
 どうして公開資料と写真しかないの?」
「委員会は学術的な団体でしたので研究内容のほとんどは公開資料です」
 数ヶ月前までは叱責される度に萎縮し化粧室に篭もって泣いていた新人も口答えの要領を覚えた様だった。
「音声や電文の盗聴記録は?」
「彼女達は口や機器を使わず言語野に才脳を増設して会話します。
 音声も電文も残りません」
 搭載少女達による会話せず微笑みあうだけのお茶会を検索官は映写した。
 校舎の屋上らしき金網で囲われた会場は茶屋に置いてある様な長椅子や傘が並べられ生徒達は紅茶や抹茶を思い思いに楽しんでいた。
「それ法的には暗号でしょ?
 解読装置の届け出義務は無視だったの?」
 ヨツユは付け爪で検索官を指した。
「規格策定中でしたので義務はございません」
 ヨツユは苛々と机上に投影された機能表を付け爪で引っ掻いた。
 透明樹脂の外殻表面を電波遮断用の金網に覆われた球形留置場がヨツユの目前に浮かぶ。
 ヨツユは手慣れた指先で機能表をつま弾き、実空間座標に投影された無用な物体を殻を剥く様に隠蔽していった。

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| カニューシャ | 17:11 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻33
「他人の身体を遠隔操縦出来るカニューシャは鍵持先輩だけなんです」
「遠隔操作って制限は無いの?
 認証も無しに問答無用なの?」
 搭載少女制作委員会名義で官庁に提出された臨床試験報告書をキミハは開いてみせた。
 見覚えのある書類にヨツユの視線は速い。
 正常な搭載少女であればコチラからの操作に対して透明化や拒否表明を行う事が出来る。
 しかし、一斉飛び降りを図った女子生徒達の様に新型共有剤を接種した予期せぬ形式のカニューシャや、不正侵入等で権限を改竄された搭載少女であれば、その保障は無い。
 コチラは回線上にいて認証を解決出来る全員を操作出来る。
 ただしコチラの様に専用の才脳を搭載していても双方向な処理に関しては作業内容の複雑さや人数に限界がある。
「公式発表以外に資料は無し、か」
 委細を眺める真似をしながらヨツユはキミハを預かる直前に出席した会議の読み辛い捜査資料を思い出していた。

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| カニューシャ | 19:51 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻32
「凄い名前」
 株式奨学制度が広まると共に改名で差別化を図る資産学徒は珍しくなくなった。
 ヨツユの様に管制上の都合で組織から改名を命令される者もいる。
 どちらの場合でも無関係な人間と同姓同名になってしまわない様に気を遣う。
 それでも搭載少女達の名前には関わって半年以上経った今でも慣れなかった。
「みんな、才脳に合わせて改名しました」
 照度を落とした船室に浮かぶ写真全てに署名が入っている事にヨツユは眼を細めた。
 駆瞳 得離絵(くどう エリエ)。
「写真は十分だから推理の委細を頂戴」
 足を組み直すヨツユの言葉に答えて給仕するキミハが開いたのは一巻の動画だった。
 どちらも何故か開けっ放しにした試着室に入ったコチラとキミハが二人とも左側を向いた状態で同時に腰の帯革を締めている。
 間仕切りを隔て共に自室の姿見へ向き直ると鴇色の髪を束ねているコチラまで黒髪を掻き上げるキミハと同じ仕草をした上で襟飾りを締める手つきまでもが揃っていた。

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| カニューシャ | 19:10 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻31
「コチラ先輩なら実現可能です」
 キミハは一件の個人情報に添えて何十枚もの写真を列挙した。
 キミハより何歳か年上らしい少女。
 毛母設定剤で根本まで完全に鴇色にした髪を小振りの脊椎を連想させる幾つもの髪留めで束ねて白い上着の背中に垂らしていた。
 髪の生え際から頭飾りの様に右脳側、左脳側、中央と務歯留め具を三つ垂らしている白い富士額に、小さな朱色の発光素子を一粒埋めこんだ女子学生は撮影に気づいたらしい一枚で柔和に微笑んでいた。
 大勢の後輩達を引き連れて廊下を早足に歩く大脳仕様学の権威。
 雑誌に載る才脳搭載技術実用化の第一人者。
 会場で才脳を実演し認可を訴える経営者。
 搭載少女製作委員会委員長。
 鍵持 故治螺(けんもち コチラ)。

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| カニューシャ | 17:56 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻30
 視界では発射された緊急用救命投網が飛び降りた来館者を次々と生け捕りにしていく。
 笑顔のままあられもない体勢で網に絡め取られる女子生徒達。
 そんな中で一人だけ捕縛の衝撃で顔を歪める小柄な少女にキミハは注目した。
 画像を引き寄せると頬の綿布に血を滲ませた怪我人は手足を絡め取られたまま再発したらしい骨折箇所の痛みに身をよじっていた。

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| カニューシャ | 15:49 | トラックバック:0コメント:0
カニューシャ第1巻29
 色とりどりの抽出輪郭で縁取られ降りかかってくる少女達に忙しなく付けられる注釈をキミハは素早く読み取る。
 学籍番号の下三桁、名前、生年月日、本籍、連絡先、部屋番号や時価総額は目まぐるしく変わっても、上場先、名字、性別、国籍、学年は変わらない。
 巻き戻して再度。
 キミハは落下する少女達の表情に注目した。
 どの子も笑っている。
 悪のりしたという感じではない。
 自棄になっている様子とも違う。
「演技する選手の笑顔」
 視野を共有しつつ受話器を耳に当てたままのヨツユはキミハの呟きを聞き逃さなかった。

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| カニューシャ | 15:45 | トラックバック:0コメント:0
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壱意再帰

  • Author:壱意再帰
  • 同人小説の発表だけでなく作詞も行うので「文芸」サークル。
    感想ブログも兼ねています。
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