名で充ちた空


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カニューシャ第1巻39
2006/03/28 20:34

 この夏仕立てたばかりの黒を基調とした面接着に身を包み、会見場に一人、彼女は立つ。
 今年度に成人認定式を予定しながら未だ七五三の童女の様に柔らかな明るい色の髪を、たおやかな背で着る清楚な上着へ滑らかに垂らし壇上を照らす光に輝かせる彼女こそ第五期榻摩奨学生の長女にして榻摩履歴株式会社会長、榻摩 幸容子(しじま コウヨウコ)。
 生殖医療技術の規制緩和を受け超健常児を望んだ第三期主席奨学生二名を母とした受精卵から厳選された形質で生まれた第一子は代表取締役としての立ち姿にも恵まれていた。
 コウヨウコは施錠した会見場入り口に点灯する非常口案内用図記号を裸眼で見つめる。
 絢爛な会見場で豪奢な照明は彼女の立ち位置だけに輝き、後は、消防法を遵守する必要最低限の光源が淡々と灯るだけの暗闇だった。
 歩行者用暗視機能も備えた愛用の掛け視野は、聴取器や腕時計、指輪、膜翅状端末、閲覧用紙等と一緒に破防庁に剥奪された。
 携帯型管理全権局は剥奪を免れたが、休眠状態にする事を命じられている。
 カニューシャであるコウヨウコの肌身は、それだけで通信機能を持っていたが名義抹消剤を注射され操作権限を失った上に無線通信網との契約は凍結されてしまった。
 カニューシャ同士で私的に接触するか、或いは独自に通信網を構築しない限り如何なる送受信も不可能な状態だった。
 後は認証鍵としての生体に流通用の情報しか持たない着衣だけを許された孤立状態で彼女は破壊活動防止庁の尋問を待っていた。
 秒刻みで動き分刻みで収益を上げる事を定められた彼女は肌載器による有効活用も許されず無為に過ぎる時間に焦燥を堪えていた。
 空調すら静粛な空間に思わず吐息が漏れる。
 そこで彼女は汗を掻いた左右の掌に数カ所、発疹が現れてる事に気づいた。
 脈に合わせて発疹は疼く。
 何時から?
 会見場に入った時には無かったはず。
 原因は?
 心当たりはあった。
 身柄を拘束された病院で注射された薬物。
 製造元が解散したはずの搭載少女製作委員会だった標識には名義抹消剤と記載されていたが何か違う物だったのではないか?

カテゴリ:カニューシャ

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